瓦礫3 ページ3
_
ひとらんに見送られてエーミールさんの居るであろう事務室に入る。相変わらず新品の本のようなインクの匂いがするこの部屋は、落ち着いた雰囲気がある。
自分のデスクに向かうと、卓上に付箋が1枚。
《明日、しんぺい神さんの元で検査があります。体調第一、今日は早上がりして大丈夫ですよ》
達筆で読みやすいそれは、直ぐにエーミールさんが書いたものだとわかる。あんな失態を見せた上でここまで優しくされると、嬉しさより先に気まづさを感じてしまう。
まぁ、何はともあれ早上がり出来るのはいい事だ。 ありがたく帰らせてもらおう
鞄に軽く荷物をまとめて、車の鍵を片手に廊下に出る。まだ僅かにズキズキと痛む頭を軽く抑えて、駐車場に向かうと誰かの人影
『……兄さん！？』
ni「よう、上がりか？」
『うん、兄さんは？』
ni「ペ神に頼まれて、Aの迎えってとこやな」
さっさと帰るぞと言って、吸いかけの煙草を携帯灰皿に磨りつぶす。まさか新しい職場を知っているとは思っていなかったし、それに迎えだなんて大袈裟な…。と思ったが案外そうでも無いのかもしれない。今の私が運転したら、頭痛で注意散漫になって事故に巻き込まれてお陀仏…なんてことも有り得る
ありがとう連絡を入れてくれたペ神、そして迎えに来てくれた兄さん。感謝してもしきれないとはこの事だろう。
『車で来ちゃったんだけど、運転してくれるの？』
ni「図々しい奴やな、はよ乗り」
なんだかんだ手渡した鍵を使って運転席に乗ってくれる、優しい兄さん。助手席に乗り込むと、いつも運転しているせいかどこか違和感が残る。
慣れた手つきでエンジンをかけて駐車場を出ると、車内にはお昼時のラジオが流れていく。
お互い特別話すことも無く、淡々とした時間が過ぎていく。この無言の空間ですら気まずさを感じることがないのだから、兄さんと過ごす時間は心地いいのだろう
ni「グルッペンとこで働くんやろ？就職おめでとう」
『情報早いね、ありがとう。兄さんにツテ紹介してもらう必要無くなっちゃったな」
ni「紹介するより先にそこにおったら必要無いやろ」
『やっぱり兄さんもあそこ紹介するつもりだったんだ』
じとりと横目で兄さんを見やると、何処吹く風と前を向いている姿が視界に入る。本当に掴みどころのないというか、飄々とした態度が良く似合うことで
ni「そりゃあ可愛いAが職失ったって泣きつてきたら、自分の傍で働かせたくなるもんよ」
『私知ってる、兄さんの可愛いは愛犬に向けるものと同じだって……』
ni「失礼なやつやな」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 763人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：どどまる | 作成日時：2023年7月8日 2時
